能動的にかき集める
第五条で判断が命と書いたが、この判断を正確にするためには、判断材料をしっかり集めないといけない。
判断材料は、たとえば部下がいろいろ報告してくるだろう、曰く、進捗に遅延が発生しました、障害が発生しました、受注しました、ライバルに受注を取られてしまいました、お客がクレームを入れています、メンバが過労で倒れました、などなど。
それらの判断材料だけを受動的にインプットされているだけでは、優れたマネージャではない。
判断材料は、能動的にフェッチ(fetch)しないといけない。
現場主義という言葉がある。重役たちがスーツ着て涼しい事務所でふんぞり返って部下の報告を聞くだけではいけない、時には作業服に着替え、ヘルメットをかぶって安全靴を履いて、現場を歩き、自分の目で確かめ、作業員と話をしたりする。
事務所にとどまるにしても、報告者から情報を受け取るだけでなくて、情報を引き出さないといけないのである。
これが出来ないマネージャがよく発する言葉がある。
「そんな話は聞いてない」
問題が起こって報告を聞いて、初めて知った事実に接したときにこのようなセリフが出てしまう。えっそうだったんだ、それを前もって知っていればあらかじめ手が打てたのに。何で報告しなかったんだ、そんな話なんて聞いていなかったぞ!
しかしこの場合は、そのような話を引き出せなかった・フェッチできなかったマネージャが悪いのである。
「そんな話は聞いてない」は「とりあえず」と並び、禁句にすべきである。
違う言葉で表現すると、「アンテナ感度」となる。
マネージャ席に座っているだけではマネージャではない。アンテナを立てて、いろんな情報を傍受する。Ccに入っているだけのメールのやり取りをちゃんと読んでみるとか。メールで言及された資料をちゃんと見てみる、成果物のドキュメントを見てみる、とか。
全部をみる必要はない。品質管理の世界では、抜き取り検査というものがある。いくつかサンプリングして、ウムちゃんとやっているな、と思うなら良し。オヤッと思うなら、サンプル数を増やしたり、抜き取り検査から全数検査に移行したり。
アンテナ感度が低いと、この辺を見過ごしてしまい、大問題に発展してから、やっと対処することになる。
スクリーニングはマネージャの役目
マネージャの中には、部下に、情報の要約を強くリクエストする人がいる。
人の上に立つマネージャは、その人の数だけ、情報量が増え、あっという間に捌き切れなくなってしまう。
部下を2人持っただけで3倍。自分を含め10人チームのリーダだったら、10倍の情報を得ることとなる。
特にメールが典型的だ。大量に送られてくる。
それらを捌くスキルを、マネージャは持たなくてはならない。しかしそのスキルがないマネージャは、
「こんなメールはいちいち送ってくるな」
といってしまう場合がある。あるいはここまで文句っぽくなくても、
「いやー1日休んだだけでメールが大変でさー」
といってしまい、それを聞いた部下が配慮して、情報の発信を絞ってしまう場合もある。
だがこれらをすると、せっかくの情報が届かなくなってしまうのだ。
テレビやラジオだったら、アンテナに届いた信号を、選局(Tuning)するのは受信機の役目であり、各放送局の役目ではない。
マネージャは、情報を捌くスクリーニングのスキルを磨いてこの問題に対処すべきであり、部下に捌かせるべきでない。

フォーマット決定はフェッチのうち
能動的な情報の取得は、なにも情報そのものを掴むことだけとは限らない。
工場内を作業服でプラプラ歩けば棒に当たる方式を嫌って、もうちょっとシステマティックにやるなら、そういうマネジメントの仕組みを構築することを検討する。
つまり相手から報告を受けるのだが、欲しい報告に合わせて、報告のフォーマット・報告の元となる情報の取得方法・タイミングなどを改善するのだ。これは受動ではなく能動になる。
たとえば第三条で述べた予兆を掴むために残業が知りたければ、あらかじめ勤怠管理表や工数管理表のフォーマットに残業時間という項目を入れ込んでおくなどだ。
この、何かを知りたい、だからフォーマットかくあるべし、と考えるマネージャばかりならいいのだが、そうでないマネージャもいる。
頭の中で、勤怠管理表は常識的に考えて概ねこんなところだろう、というイメージだけがあり、
何が知りたいかはあまり考えていない人は、通り一遍のフォーマットを作ってしまう。
これは見よう見まねでアンテナだけ立てたようなものだ。
あるいは何かが知りたいかを考えずにとにかく良い管理表にしようという意欲だけが空回りすると、情報量だけは至れり尽くせりで、書き込むのに時間(コスト)が掛かりすぎ、その代わり読み取るマネージャがいない、という表が出来上がる場合もある。
やたら高感度の無指向性アンテナを闇雲に立てて雑音ばかり拾っているようなもの。
アンテナには指向性がある。
何を受信したいのかをハッキリさせ、だからこそフォーマットはこうだ、と作りこまないといけない。
フォーマットは第二条後半のようにフィードバックループで磨きを掛ける。そうすれば能動的といえる。