民法の一番最初
マネージャは法的知識が要求される場合がある。
そして法律は沢山ある。
それらの法律の、実務的なもの(労働基準法・著作権法・製造物責任法など多種)よりも、
その土台となる原理原則的なもの(憲法とか民法とか)をしっかりさせておくと、
硬い芯が出来て、応用が利き、法的な判断を正しく下せるので、勉強するなら民法がお奨めである。
その原理原則的なもののうち、一番大事なのは、以下だと思っている。
民法 第一条 第二項 (信義誠実の原則)
権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
2005年より前の文語時代は、
権利ノ行使及ヒ義務ノ履行ハ信義ニ従ヒ誠実ニ之ヲ為スコトヲ要ス
と書いてあった。古い人間はこっちがおなじみである。
「信義誠実の原則」は短く「信義則」ともいう。
法律をさかのぼって行くと、ここに行き当たることが多い。
権利の行使、及び義務の履行、とはつまり、お互いに、ということである。
片方が、ではない。
だからたとえば
「こっちはカネ払ってんだ!」
ということは過度に言ってはいけない。下請法をさかのぼると、信義則にたどり着くように思う。
あるいは信義誠実にしないで、黙っていたりウソを言ったり、
「かならず儲かります!(独白:ホントはそうとも言い切れないけどね)」
などというのは金融商品取引法に引っかかる。
民法はパンデクテン方式で書かれており、最初に総則、後に各論、という順番となっている。
その一番最初はもうホントに大事な大事な原理原則となるので、
信義誠実の原則は大事なのである。
信義誠実の原則を無視して、腹黒いことをすると、その刹那は得することがあるかもしれない。
バレなければ問題ないという考え方もある。
だが世間というものは、後になってから、急にナイフを首筋に突きつけてくることがある。
政治家とかが顕著だ。ずっと前の言動を問題視されるスキャンダルが時々マスコミを賑わす。
まあそこまで行かなくても、マネージャのように人の上に立つポジションの人は、
多かれ少なかれ、急に矢面に立たされるリスクがある。
世間とは、マスコミや警察でなくても、たとえば上司・部下・お客さん・配偶者、などだ。
これらの人からあるとき急に問いただされる。浮気してる?とか。
そんなとき、自信を持って胸張って受け答えが出来るのは、常日頃から信義則を旨として行動している人間である。
信義に反することをすると、その弱みが、言葉の弱みとなって、相手に、お客様に、上司や部下に、伝わる。
隠すのに長けた人もいるかもしれないが、そういう人の言葉は弱くはない代わりに、胡散臭くなる。
そうするとお客様からの注文を失ったり、部下をうまく統率できなくなる。
だから、ビジネスをうまくやろうとしたら、
生き馬の目を抜くビジネスの世界ではあるが、
信義誠実の原則を忘れてはならない。
もちろん、われわれは人間であり、神様ではない。
聖人君子でない以上、腹黒いところをゼロにするのは大変困難ではあるが。
ところで、信義誠実は、お客様との信頼関係に密接にかかわってくる。
不義をしていたのでは信頼は勝ち得ることが出来ない。
そして信頼の怖いところは、積み上げるときはほんのちょっとずつしか積み上げることが出来ないのに、崩すときは全てが一瞬で崩れるということだ。
だから信頼関係を維持するために、全力を尽くして誠実であらねばならない。

トラブル時は、より一層の信頼を得ることを目標とする
ビジネスにトラブルはつきものだ。
第三条 何かが起こってからでは遅い、とは言っても、やはりトラブルが起きてしまうことはままある。
例えば(ソフトウェア産業に限って例を挙げるなら)ソフトウェアには必ずバグがあり、お客様に迷惑をかけてしまうことがある。
一般的には(ソフトウェア産業に限らずに言うと)、人間は神様でないので、絶対に間違いが発生する。
お客様の信頼は大切だ。そしてそれはトラブルなどで失いやすい。しかし、
「信頼を失わないようにする」
を目標にトラブル対処するのは、避ける。
「より一層の信頼を得る」
これを目標にする。
雨降って地固まるという。バグのないソフトウェアがそれは一番なのだが、実際のところ、ソフトウェアにはバグが付きものなのだから、次善としては、しっかりしたトラブル対応をする。これができるところがしっかりした信頼を得る。だから全力を尽くして対応しよう。考えるのは、第九条 顧客満足度第一、と、この第十条 信義誠実の原則 である。
しかしこの2つを考えずに、
「なんとか厄介から解放されたい」
「早いところ手離れしたい」
というような、問題から顔をそむける態度、誠実でない態度で対処すると、たちまち信頼は失う。
ここまでひどくなくても、「信頼を失わないように」対処すると、対処が後手に回り、十分な信頼を保てない。
そこでここは逆にチャンスと捉え、フォローでなくてよりアクティブに、対処することで、従前よりも信頼を厚くすることを目標にする。